U.S. News & World Report誌が毎年発表する「最高の仕事100」の2020年のランキングで、歯科医の職業が2位に躍進していました。(2017年ではトップでした。)
このようにアメリカの歯科医療者に対する関心は高く(歯科衛生士もとても人気です)、日本のそれとは少し乖離しています。日本では残念ながら、なりたい職業ランキングに歯科医師が100位以内にランキングされることでさえ少ないです。アメリカでの歯科医師の仕事はとても人気で、その分歯科大学に合格するのも困難です。(ここでいう歯科大学とは米国歯科医師国家試験を受ける資格とDDSやDMDなどの学位がもらえるレベルの大学を指します)
そんな歯科大学でさえ難しい中、アメリカにはそのアドバンスドな教育として歯科各科の専門医プログラムというものがあります(補綴科、歯周病科、歯内療法科、矯正科など)。分類としては大学院となるのですが、これはいわゆる博士号がとれる基礎研究の大学院とは異なり、主に臨床を学ぶ大学院です。プログラムによって年数は異なりますが2-4年間、膨大な英語歯学系論文を読まされ、その1つ1つを科学的根拠にしながら、毎日たくさんの患者症例について指導教員との入念なディスカッションの元で自らの頭で考えて治療を行い、たくさんの試験もクリアしてそのプログラムを卒業します。そしてそれと同時に、米国専門医の資格が得られます。The Commission of Dental Association: CODAというアメリカ歯科学会の審査機関が各大学の各プログラムを定期的に厳しく審査し、専門医プログラムの教育の質は一定水準以上に保たれています。もちろんその審査を通った教育システムはレジデント(専門医プログラムの学生)にとってもとても過酷なもので、プログラムの卒業つまり米国専門医の資格を得た時には膨大な知識と技術が備わっている一定水準を満たしている専門医になったことを意味します。ちなみに日本には卓越した非常に素晴らしい先生方は勿論たくさんいらっしゃいますが、教育のシステムということに関して言うと日本には残念ながらここまで教育の質が担保された専門医教育システムというのが存在しないのが現状なのです。
そして何よりこの米国歯科臨床大学院である専門医プログラムに合格するのが米国歯科大学に入るよりもはるかに狭き門です。多くが1学年2-4人くらいの合格枠で、それを文字通り世界中の優秀な歯科医師・歯科学生たちが挙って毎年のように応募します。各大学、プログラムにもよりますが、大体100-200人の中からたったの数人の合格者であり、宝塚歌劇団も真っ青です(宝塚の倍率はおよそ20倍だそうです)。CV(履歴書)、学生時代の成績・学年順位、エッセイ、3-5通程度の上司からの推薦状、課せられた様々な試験のスコア(近年は海外志望者でも米国歯科医師国家試験の合格も要件になってきており、筆者も実際に合格しました。)、など、準備だけでも相当な時間を要するたくさんの書類からまず選考が行われ、20-30人程度に絞られた候補者が面接に呼ばれます。この面接に呼ばれるまでがまず大変なのですがその後面接(人間性がものすごく重視される)や試験などを経て最終の数人という枠が選ばれるのです。このプロセスを経て選ばれた合格者たちはまさに精鋭たちで、そこから数年の過酷で濃密かつ充実した教育の末、米国専門医が輩出されます。このように一口に歯科でアメリカへ臨床留学をして米国専門医になるといっても、英語力はもちろん必要ですし、並大抵の努力だけでは難しく運も関わってくるかもしれません。当院の呉圭哲は2022年の7月から3年間の過酷な歯周病専門医プログラムがUniversity of Texas Health Science Center at Houston(テキサス大学ヒューストン校)でスタートし、米国歯周病専門医を目指して日々精進している身です。今後現地の生の情報も皆様と共有して参ります。