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歯肉炎の歴史的事実

前回歯周病は歯肉炎と歯周炎に大別され、歯肉炎を治療せずに放置しておくと、歯周炎に移行することがあると説明しました。

平成 28 年度の歯科疾患実態調査(5年に1度行われる日本の歯科に関する調査統計)によると,歯肉の出血がある者の割合は、15歳以上で30%を超え、30歳以上55歳未満で40%を超えています。数字上はこのようになっていますが、歯科医院での検査時に1ヶ所も全く出血しない、なんということは非常に稀と言っても良いでしょう。それだけ歯肉炎は起きやすく注意が必要です。

では歯肉炎とはどんなものなのでしょうか?1965年に歯肉炎に関する世界的に有名な実験的歯肉炎の研究が初めてLöeらによって行われています。

この歴史的な実験では、平均年齢23歳の12人の被験者(口腔清掃状態が非常に良好、歯肉は健全)が参加しています。この参加者達は口腔清掃を止めるよう指示され、その間のプラーク(歯垢)や炎症、細菌の状態を検査されています。

結果としては、口腔清掃を止めてから10日から21日の間で、細菌量・非常在性の細菌叢の増加と共に歯肉炎を生じました。そして特に隣接面部(歯間部)により大きな歯肉の炎症が認められています。 また口腔清掃を再開すると約7日間で歯肉炎から回復しました。

この研究から言えることは「歯を上手く磨けていないと、そこに蓄積したプラークが歯肉炎を10日から3週間以内に発症させる」ということです。しかし歯周炎と異なり、正しく磨き直すことができればその炎症は1週以内には止まると言えます。主に歯間部から炎症が始まりやすいので、これを皆さんの日常で置き換えて言うと「歯間部の清掃をほとんどしていない人が歯肉炎を起こし、歯間ブラシをかけると出血するが、正しく使い続ければおよそ1週間で出血は止まる」とも言えます。

この研究では細菌性プラークの発生が歯肉炎の発生であることを見事に証明しており、この研究と最近の研究(Trombelliら、2008)などにより、歯肉炎の反応には個人差があり、他の人と比べて疾病の発現の程度や時期が異なることも示されています。このように、プラークが病因となることは古くから知られていますが、患者さんの歯周病原菌への感受性に関わる要因はまだ十分に解明されていません。歯周炎の患者さんは、一度は歯肉炎になっていますが、すべての歯肉炎の患者さんが必ずしも歯周炎に進行するわけではありません。歯周炎では歯を支える歯槽骨の吸収が起きますが、歯肉炎の段階では歯肉の炎症で留まり歯槽骨には全く影響していないのは大きな特徴です。是非皆さんも正しい口腔ケアを行っていきましょう!

次回は歯周炎の研究的事実について解説したいと思います。

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