「噛み合わせが悪いと歯周病になりますか?」
「歯ぎしりがあるから、歯ぐきが悪くなったのでしょうか?」
時々このような質問を受けることがあります。たしかに、強い噛みしめや歯ぎしりがある方では、歯が揺れる、噛むと痛い、歯の根のまわりに負担がかかる、といった症状が出ることがあります。そのため、「噛む力が歯周病の原因なのでは?」と思うのは自然なことです。
しかし、まず大切なのは、歯周病の主な原因は細菌による炎症であるという点です。歯のまわりにプラーク、つまり細菌のかたまりがたまると、歯ぐきに炎症が起こります。これが長く続くと、歯を支える骨が少しずつ壊されていきます。これが歯周病の基本的な流れです。
一方で、噛む力が強すぎたり、特定の歯だけに力が集中したりすると、歯を支える組織に負担がかかります。このように、歯や歯周組織が耐えられる範囲を超えた力を「外傷性咬合力」と呼びます。外傷性咬合力は歯周組織や歯の適応能力を超える力であり、咬合性外傷や歯の過剰なすり減り、破折を起こす可能性があります。
では、噛む力だけで歯周病は始まるのでしょうか。
現在の考え方では、噛む力だけで歯周病が始まるとは考えにくいとされています。つまり、歯ぐきが健康で、細菌による炎症がない状態であれば、強い噛む力が加わったとしても、それだけで歯周病がどんどん進むわけではありません。外傷性咬合力が歯周炎における組織喪失の進行に関与することを示すヒトの研究の証拠は不足している、というのが現在の見解です。
ただし、ここで注意が必要です。噛む力が「全く関係ない」という意味ではありません。
すでに歯周病で歯を支える骨が減っている場合、同じ噛む力でも歯にとっては大きな負担になります。たとえば、地面にしっかり根を張った木と、土が少なくなって支えが弱くなった木を想像してみてください。同じ風が吹いても、支えが弱い木の方が大きく揺れます。歯も同じです。骨の支えが減っている歯では、普通の噛む力でも揺れや痛みにつながることがあります。
このように、歯周病で支えが減った歯に、通常または過剰な噛む力が加わって起こる問題を「二次性咬合性外傷」と呼びます。正常な支えの歯に過剰な力が加わるものは一次性、支えが減った歯に通常または過剰な力が加わるものは二次性と分類されます。
つまり、歯周病と噛む力の関係は、主役と脇役の関係に近いです。歯周病の主役は細菌による炎症です。しかし、そこに強い噛みしめ、歯ぎしり、偏った噛み合わせが加わると、弱っている歯にさらに負担がかかることがあります。
治療でも、この考え方が大切です。歯が揺れているからといって、最初から噛み合わせだけを調整すればよいわけではありません。まずは歯周病の原因であるプラークや歯石を取り除き、歯ぐきの炎症を落ち着かせることが基本です。そのうえで、歯の動揺、噛んだときの痛み、レントゲンでの歯根膜の変化などを確認し、必要に応じて噛み合わせの調整やナイトガードを検討します。歯周基本治療を行ったうえで、動揺度、歯根膜腔の拡大などを評価し、必要に応じて咬合調整やバイトガードを用いる流れが一般的です。
「歯周病は噛み合わせのせいですか?」という質問への答えは、単純に「はい」でも「いいえ」でもありません。
正確には、噛み合わせだけで歯周病が始まるわけではないが、歯周病で弱った歯には噛む力が大きな負担になることがある、ということです。
歯を長く守るためには、細菌のコントロールと力のコントロールの両方が必要です。歯みがきや歯石取りで炎症を抑え、必要に応じて歯ぎしりや食いしばりへの対策を行う。この両方をバランスよく行うことが、歯周病治療ではとても大切です。
