2023年、あけましておめでとうございます。本年もホワイト歯科クリニックをよろしくお願いいたします。
さて、以前の投稿で、「歯肉炎」の発症は、細菌の塊であるプラークに炎症反応として誰にでも生じる一方、「歯周炎」については人によって、生まれつきの歯周病に対する感受性や後天的な環境因子、あるいはその両方により、その発症がみられることがあると説明しました。つまり、歯周炎については人によりその反応の違いがあるということです。
ここで興味深い研究をご紹介します。
Löeら(1986年)は、未治療の歯周炎の進行について明確なパターンを示す、スリランカの茶畑で働く14-46歳の男性労働者480人を対象に行った長期観察研究のデータを発表しました。なぜスリランカなのかというと、当時その地域では、文化背景的に歯科で予防的または治療的な処置を受けることが一般的ではありませんでした。その集団を治療介入を行うことなくそのままに15年の間追跡調査し、歯周炎の進行度によって3パターンに分類しました。(急速進行群、中等度進行群、非進行群)
どの被験者もプラークコントロール(歯磨きの状態)が悪く、歯肉炎がいたるところに見られたにもかかわらず、45 歳における歯周組織の平均喪失量について、
急速進行群は13mm (1.1mm/年平均)であったのに対し、 非進行群はたったの1.5mm(0.05~0.09mm/年)、中等度進行群は 7mm (0.05~0.5mm/年)でした。
さらに特筆すべきは、スリランカで歯科治療を受けることができず、口腔衛生状態が良くないこの集団において、非進行群11%、中等度進行群81%、急速進行群8%という割合で分かれており、歯周炎発症のリスクという概念は、確認されました。他の研究でもこの割合というのは類似しており、つまるところ約1割ずつの方々がほとんど歯周炎を発症しないか、急速に発症するか(その進行度は実に10倍以上!!)を示し、逆に言えば8割の方は平均的に歯周炎に罹患してしまうこともわかります。
このように、本研究では、一見一様な集団における歯周炎の進行に大きなばらつきがあることを明確に示し、年齢、プラーク、歯肉の炎症状態以外の因子が、歯周炎の経年悪化に重要であることを示唆するものでした。
歯周病破壊の程度を決定する個人の免疫反応は、さらに、全身性疾患(糖尿病など)、喫煙、ストレス、年齢などの内外の要因に左右されることもわかっています(Kinane et al.2006)。口腔内の細菌叢、免疫系に影響を及ぼす内外の要因、および患者の一般的な遺伝的体質の間のこの相互作用が、歯周炎に対する患者個々の感受性を形成していると考えられます。
このように歯周炎のリスクは皆様一人一人で様々です。ご自身で判断されることなく、お早めに歯科の受診をされ、各々の状態やリスクの評価をしてもらうようにしましょう。
スリランカの男性茶畑労働者480人のデータ(1986) | 歯周組織の年間平均喪失量 | 全体の割合 |
非進行群 (Low risk) | 0.05-0.09mm/年 | 11% |
中等度進行群 (Moderate risk) | 0.05-0.5mm/年 | 81% |
急速進行群 (High risk) | 1.1mm/年 | 8% |